? 脳科学最新ニュース/「脳のニュース」 2012年10月21日

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脳科学者  澤口俊之氏による脳科 学情報

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理研、アルツハイマーなどの「神経変性疾患」の治療につながる仕組みを解明

マイコミジャーナル 10月21日(金)21時10分配信

理化学研究所(理研)は10月21日、認知症や運動機能障害などを引き起こす「神経変性疾患」において、神経細胞内で共通してみられる異常タンパク質を分解する新たなメカニズムを解明したと発表した。研究は理研脳科学総合研究センター構造神経病理研究チームの貫名信行チームリーダーと松本弦研究員らによるもので、成果は米科学雑誌「Molecular Cell」10月号に掲載予定で、それに先だって日本時間10月21日発行の同誌オンライン版に掲載される。

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アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病などの神経変性疾患に共通する特徴は、神経細胞内に凝集した異常タンパク質の蓄積だ。異常タンパク質は細胞毒性を持つため、神経細胞変成や細胞死を引き起こしてしまう。

細胞は、タンパク質の分解を生業とする巨大酵素複合体「プロテアソーム」を有していたり、細胞が自分自身を分解する「オートファジー」といったシステムを備えていたりして、異常タンパク質を分解して細胞内から除去できるのだが、現在のところそれらを制御する詳細なメカニズムについてがまだわかっていない。

大多数の異常タンパク質も、タンパク質修飾の一種である「ユビキチン化」によって目印が付けられ、それによってプロテアソームが分解するのだが、プロテアソームは凝集した異常タンパク質を壊すことはできないという弱点を持つ。プロテアソームで分解できなかった異常タンパク質は、「p62」などの特定のタンパク質によって働く「選択的オートファジー」により分解されると考えられている。

神経変性疾患における神経細胞では、ユビキチン化された異常タンパク質の凝集体が蓄積していることから、選択的オートファジーによる異常タンパク質の分解機構に問題があるのではないかと、現在は考えられている。

研究グループは、2004年にハンチントン病を含む「ポリグルタミン病」(疾患遺伝子産物の伸長ポリグルタミン=正常より長くなったグルタミンを含むタンパク質が核内に蓄積し、核内封入体を形成することを特徴とする病)の主要な病理所見である核内に凝集した異常タンパク質である「核内封入体」に結合するタンパク質を探索し、前述のp62タンパク質を同定したという実績を持つ。

そのp62は、異常タンパク質の蓄積やプロテアソームの阻害によって発現が増加することも確認されている。p62が異常タンパク質の分解に関与していることが示唆されているというわけだ。

また最近の研究では、オートファジーによるタンパク質分解システムが阻害されると、p62が核内封入体として蓄積することや、異常タンパク質の蓄積を伴う神経変位疾患の患者の脳組織でp62の蓄積が見られることも報告された。

これらの事実から、研究グループはp62の機能に着目し、異常タンパク質の分解メカニズムの解明に挑んだのである。

研究グループは、リン酸化などの翻訳後修飾によってp62の機能が抑制されていると考え、まず質量分析によりp62の修飾部位の同定を行った。すると、p62は多くの部位でリン酸化を受けていることが判明(画像1・A)。

次に、これらのリン酸化部位に対する特異的な抗体を作成し、プロテアソームとオートファジーのそれぞれの阻害によってリン酸化が顕著に増加するアミノ酸配列403番目の「セリン残基」(S403)を同定した(画像1・B)。

このS403のリン酸化は、脱リン酸化酵素の阻害によって増加することから、細胞内ではS403リン酸化型p62と非リン酸化型p62が平衡状態で共存していることも示唆された(画像1・C)。

さらに、オートファジーを遺伝的に欠失した「ATG5ノックアウトマウス」では、ユビキチン化タンパク質とp62が異常に蓄積することが知られていたが、ATG5ノックアウトマウスの神経細胞を組織染色すると、S403リン酸化型p62が核内封入体に蓄積していることが確認された(画像2)。

試験管内リン酸化反応によって、このS403をリン酸化する酵素が「カゼインキナーゼ2」(CK2)であることも同定し、CK2が直接p62のS403をリン酸化することを確認した。またこのCK2を細胞内で過剰発現させると、S403リン酸化型p62が増加すると同時にp62の全体量が減少することも判明。選択的オートファジーによって、異常タンパク質と共にS403リン酸化型p62の分解が促進されることが示唆された形だ。

p62は細胞内で「p62小体」と呼ばれる顆粒状の構造体を形成することが知られている。S403リン酸化型p62が蓄積する場所を特定するために、蛍光タンパク質で標識して観察した結果、p62小体内に局在することが判明した(画像3・A)。

また、S403がリン酸化された状態に似せたp62変異体「S403E変異体」を細胞内で発現すると、野生型と比べてより多くのp62小体を形成することが判明。さらに、S403E変異体のp62小体はより多くのユビキチン化タンパク質を取り込んでいること(図3・B)や、p62のS403リン酸化でユビキチン化タンパク質との結合力が増強されることも確認されている。

これらの実験結果から、S403リン酸化型p62がユビキチン化タンパク質と結合してp62小体を形成し、選択的オートファジーのシステムを利用して異常タンパク質の分解を行っていることが示唆された。

神経変性疾患ではユビキチン化された異常タンパク質が細胞内に蓄積しており、つまるところp62のS403リン酸化を促進することで選択的オートファジーを更新することができれば、異常タンパク質を効率よく分解し疾患の治療につなげることが期待できるという。

その可能性を探るために研究グループは、ハンチントン病の病因遺伝子「ハンチンチン」の一部を発現したモデル細胞において、p62のS403リン酸化を促進させた場合の異常ハンチンチンの蓄積の変化を調査。

結果、CK2の過剰発現でS403リン酸化を促進させた場合の異常ハンチンチンの凝集体が顕著に減少し、またp62の発現を抑えるとこの効果が抑制されることも確認された(画像4)。このことは、p62のS403リン酸化の促進により、細胞毒性を持つ異常タンパク質を選択的に除去できる可能性を示している。

以上の結果から研究グループは、細胞内のp62リン酸化型と比隣参加型が平衡状態で共存し、S403リン酸化型p62はプロテアソームで壊すことができないユビキチン化タンパク質と強く結合してp62小体を形成し、選択的オートファジーで最終的に分解する「タンパク質の品質管理」の新たな制御メカニズムを提唱した(画像5)。

今回の成果から、p62のS403リン酸化を得意敵に促進する薬剤を開発することができれば、選択的オートファジーを亢進させ、以上タンパク質を効率よく分解できる可能性があるという。ハンチントン病だけでなく、異常タンパク質の細胞内蓄積を特徴とするアルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患の治療も期待できるとしている。

(デイビー日高)

[マイコミジャーナル]

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