人は暗示で色を見る、脳スキャンで確認
ナショナルジオグラフィック 公式日 本語サイト 12月8日(木)13時56分配信
人は暗示の力だけで実際には存在しない色を見ることができるという研究が発表された。
この実験では、あらかじめ選定された被験者に灰色の模様を見せ、色が付いていると想像するよう求めた。被験者のうち11人は、もともと催眠術に非常にかかりやすいことが確認されている人たちで、別の7人は催眠術にかかりにくい人たちだった。
アメリカの総合医療機関メイヨー・クリニックによれば、催眠状態というのは注意の対象が狭まり、意識が集中し、自分の内部に没入することを特徴とする一種のトランス的な状態だという。世界中で約10%の人は催眠術に非常にかかりやすく、10%はまるで影響を受けない。
残りの80%、つまり大半の人は催眠術にある程度影響を受ける。そう説明するのはイギリス、ハル大学の神経科学者で論文の共著者であるウィリアム・マギオウン(William McGeown)氏だ。
マギオウン氏によると、今回の研究では、催眠術にかかりやすい被験者全員が、催眠状態でなくとも、さまざまな色を見ていると報告したという。
研究者たちは、被験者の言葉をただ鵜呑みにしたわけではない。MRIスキャンで見ると、被験者が想像上の色を見ているときに、脳の中の色の知覚に関係する部分が明るく輝くのだ。
「被験者の脳の中の色を感じる部分が変化するのを確認できる。これについては被験者が嘘をつくことはできない」とマギオウン氏は話す。
◆脳スキャンが結果を裏付ける
※女性セブン2011年12月22日号
今回の研究では、催眠術にかかりやすい被験者が催眠術にかかった状態だと、さらに色の幻覚が強化されることもわかった。しかし、催眠術にかかりにくい被験者では、かかっていようといまいと、色の幻覚が生じることはなかった。
スタンフォード大学の心理学者スティーブン・コスリン(Stephen Kosslyn)氏は、この研究結果は自分たちの先行研究を裏づけるものだと話す。
コスリン氏の研究チームは2000年に色の幻覚について先駆けとなる研究を発表した。コスリン氏らの実験では、催眠術に非常にかかりやすい被験者に催眠術をかけたうえで、灰色の四角に色がついているものと想像してもらった。
そのときの研究では被験者の脳をPETでスキャンしたが、やはり色の知覚に関係する部分が活性化していた。
今回の研究では、同様の結果がMRIで確認された。MRIのほうがPETよりも空間解像度が高いため、今日の実験ではMRIのほうが好まれることが多いとマギオウン氏は説明する。
◆暗示だけで恐怖症や疼痛治療の可能性も
幻覚の研究はいずれ、恐怖症から疼痛までさまざまな病気の治療に催眠術を利用している医療専門家の力になるかもしれないとマギオウン氏は話す。
というのは、医療で利用されているとはいえ、催眠術の手法に恐れを感じる人は多いためだ。
「患者に暗示を与える心理学的治療法は、催眠術を使わなくても問題の解決に大きな力となる可能性がある」。
この研究論文は「Consciousness and Cognition」誌に掲載される。
Christine Dell'Amore in San Francisco for National Geographic News
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