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脳科学者  澤口俊之氏による脳科 学情報

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思春期に刺激の多い集団環境で過ごすと大脳の働きが活性化する - 理研


マイナビニュース 4月4日(木)12時10分配信



理化学研究所(理研)は、ラットを使った実験で、刺激に富む環境で飼育すると脳の海馬の左右間に発達の差が出ることを発見し、飼育環境の違いという外的因子により、脳機能の左右非対称性が促進されることを示したと発表した。

同成果は、理研脳科学総合研究センター 神経グリア回路研究チームの篠原良章 研究員、同 細谷亜季 テクニカルスタッフ、同 平瀬肇 チームリーダーらによるもので、詳細は英国のオンライン科学雑誌「Nature Communications」に掲載された。

乳幼児期や思春期の経験が、ヒトの将来の人格形成に大きな影響をもたらすことは知られており、そうした成長過程における経験がその後の行動や学習能力にどのように反映されるかについて、さまざまな動物や手法で研究が進められている。例えば、思春期にあたる生後3週~6週間目のマウスやラットを遊具付のケージで集団飼育すると、空間記憶などの学習能が向上することが知られているが、これは遊具による視覚・体性感覚および集団飼育による社会性の刺激による「豊かな環境」が脳に影響していると考えられ、神経回路に物理的な変化が起きることが過去の研究からも判明しており、中でも、大脳新皮質の内側に位置する海馬で神経細胞の新生が活発になり、神経細胞の形態がより複雑になるなど、大きな構造変化が起きることが知られている。

記憶形成に重要な働きをしている海馬だが、飼育環境がその神経活動にどのような及ぼすのか、といった影響はよく分かっていないほか、脳の左右に一対存在しているものの、左右の神経活動を同時に計測した実験は少なく、飼育環境の違いによる左右の海馬間の活動変化については未知のままであったという。

今回、研究グループは、脳の情報伝達は神経細胞集団がある特定のリズムをもって同期して活動することにより実現されると考えられている点を鑑み、そうした集団的神経細胞の活動は脳波(電位変化)の活動として検出されるが、θ波(8~12Hz)が発生するとき、海馬の一部であるCA1錐体細胞の尖端樹状突起が伸びた先にある放線状層と網状分子層では、知覚活動時に顕著に出現することが知られているγ波(30~100Hz)が同時に出現することに着目し、飼育環境と海馬の神経活動の関連性の調査を行った。

具体的には、思春期のラットを1匹だけでケージで飼育する「隔離飼育群」と遊具を入れたケージで6~8匹を集団飼育する「豊かな環境飼育群」に分け、約4週間それぞれの環境で飼育した後、感覚入力を遮断し、外界刺激に依存しない海馬固有のリズムを観察するために、覚醒の状態と似た脳波が出現するような麻酔をラットに施し、θ波発生時中のCA1領域の放線状層のγ波の解析を行ったという。

その結果、豊かな環境飼育群のγ波の振幅が隔離飼育群に比べて大きくなり、左右間のリズムが同期する現象が確認されたほか、左右のγ波を比較したところ、右側の振幅がより大きくなっていることが明らかとなったとする。これは、左右の海馬にある神経細胞は協調しながらも右側の神経細胞の活動を強くし、右側を優位にするように脳機能の左右非対称性を促進することを示すものだと研究グループは説明する。

さらに研究グループは次なる実験として、学習に重要なシナプス可塑性が同現象に関与しているかを調査するために、シナプス可塑性に関わるNMDA受容体の働きを慢性的に減衰させるために、NMDA受容体阻害剤のケタミンを飲み水に入れてラットに飲ませて豊かな環境下で飼育したところ、豊かな環境で飼育したにもかかわらず、γ波の振幅は増強されていないことが確認されたという。

この結果は、豊かな環境における刺激により、神経細胞のシナプス可塑性が起こり、顕著なγ波が出現することを示唆するものであり、豊かな環境飼育群の海馬CA1領域にあるシナプスの観察を実施したところ、右脳側のシナプス密度が高くなっていること、つまり飼育環境の違いにより左右非対称に神経回路の再編が起きていることを確認したほか、別の実験から飼育環境による脳波変化は短期間では起こらず、3週間以上の豊かな環境での慢性的な経験が必要であることも判明したという。

今回の成果は、飼育環境の違いという外的因子が、脳機能の左右非対称性を促進することを示すものであり、研究グループでは、海馬は霊長類で急速に進化した大脳新皮質の原型であることから、この発見からヒト脳の機能的左右差形成の仕組みを解明する手掛かりを得ることが期待できるとコメント。

また、豊かな環境群では、左右海馬でのγ波の同期が観測されたことについては、γ波が脳の違った領域で同期するときは、その領域間で情報の統合が行われていることを意味しており、左右海馬での同期は、互いに連携しながら別々の働きを持つように機能を特化させていることが考えられると説明しており、今後の研究から、どのような分子メカニズムで左右の機能の分別が生じたのかが明らかになれば、ヒトなどの脳の左右形成メカニズムに迫ることができるかもしれないとしている。

[マイナビニュース]



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