魚を食べるとうつ病になりにくいという論文も
ビタミン・ミネラル・脂質・糖質・たんぱく質など、ヒトは多くの栄養を必要とするが、幾多の要素のなかで、脳のパフォーマンスを向上させる効果があると、ほぼ一貫して指摘されるのは「オメガ3不飽和脂肪酸」である。
オメガ3不飽和脂肪酸の代表選手は「ドコサヘキサエン酸(DHA)」であろう。魚油に多く含まれる脂肪酸だ。
アメリカ国立衛生研究所のヒベルン博士は「うつ病の罹患率と魚の摂取量は負に相関する」という論文を報告している。これによれば、魚をあまり食べないドイツやカナダではうつ病の率が高いが、日本のように日常的に魚を食べる国ではうつ病率はこれらの国々の何分の1と低いという。
以下に、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のゴメス=ピニルラ博士が作成した最新のリストを眺めてみよう(「Nat Rev Neurosci 9:568-578,2008」より抜粋、このリストには「よい」ものだけなく、「わるい」ものも含まれていることに注意)。ここではヒトでの実験のデータと、動物実験のデータを分けてリストしておく。
(1)オメガ3不飽和脂肪酸(DHAなど)
ヒト:高齢者の認知機能低下の改善、ムード障害の治療
動物実験:脳損傷による認知機能低下の改善、アルツハイマー病モデル動物で認知力低下の改善
(2)クルクミン(ウコンのスパイス成分)
動物実験:脳損傷による認知機能低下の改善、アルツハイマー病モデル動物で認知機能低下の改善
(3)フラボノイド(ココア、緑茶、銀杏の樹、柑橘類、ワインに含まれる)
ヒト:高齢者の認知機能の向上
動物実験:運動と組み合わせることで認知機能の増強
(4)飽和脂肪(バター、ラード、ヤシ油、綿実油、クリーム、チーズ、肉に多い)
ヒト:高齢者の認知機能低下を促進
動物実験:脳損傷による認知障害を増悪、加齢による認知機能低下を促進
(5)ビタミンB類
ヒト:ビタミンB6やB12や葉酸の補充によって、広範な年齢の女性で記憶力が向上
動物実験:コリン欠乏による認知機能低下をビタミンB12が改善
(6)ビタミンD(魚の肝、キノコ、牛乳、豆乳、シリアル食品)
ヒト:高齢者の認知機能に重要
(7)ビタミンE(アスパラガス、アボカド、豆類、オリーブ、ホウレンソウ)
ヒト:加齢による認知力低下を鈍化
動物実験:脳損傷による認知機能低下を改善
(8)その他のビタミン
ヒト:抗酸化作用のあるビタミンA、C、Eは高齢者の認知機能低下を遅延
(9)コリン(卵黄、大豆、牛肉、鶏肉、レタス)
ヒト:欠乏すると認知機能が低下
動物実験:痙攣発作による記憶力低下を抑制
(10)カルシウム(牛乳)、亜鉛(カキ、豆類、穀物)、セレン(豆類、シリアル食品、肉、魚、タマゴ)
ヒト:血清中のカルシウムが高いと加齢による認知機能低下が促進。亜鉛は加齢による認知力低下を鈍化。長期にわたるセレン不足は認知機能低下に関係
(11)銅(カキ、牛(羊)肝臓、黒糖蜜、ココア、黒こしょう)
ヒト:アルツハイマー病の認知機能低下の程度は血漿中の銅濃度の低さと相関
(12)鉄(赤身肉、魚、家禽、豆類)
ヒト:若い女性において認知機能を改善
池谷 裕二(いけがや・ゆうじ)
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